した。ますます叮嚀に云った。
  何でもないんです……
  今夜十二時迄僕の云う通りになるのです……
  御承知なら唯今十円差し上げます……
  成功すれば百円差し上げるという証文を添えて……
  どうです……
 徳市はすっかり酔ってしまった。ワクワクフラフラしながらうなずいた。
 紳士はポケットからボロボロの十円札を一枚と証文のようなものを出して徳市の前に置いた。
 徳市は受け取って証文の署名を見た。
 ――浪越憲作《なみこしけんさく》――
 紳士――憲作は念を押すように云った。
  よろしいですね……
 徳市はうなずいて証文と十円札を懐に仕舞った。すぐにコップに手をかけた。
 憲作はニコニコして酌をしながら半分真面目に云った。
  人間は働らかねば駄目です……
 徳市は眼をつむってグ――ッと飲み干した。
 憲作は呼鈴《よびりん》を鳴らした。
 美人が出て来た。
 二人は眼くばせをし合って徳市を奥へ案内した。

     ―― 5 ――

 徳市は酔った眼であたりを見まわした。美事な洗面台や化粧台、バスなぞが眼に付いた。
 憲作と美人はヨロヨロする徳市を捕まえて腰を掛けさせた。
 徳
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