寿は慌てて詫びたりいたわったりしたが音絵はなかなか泣き止まなかった。歌寿はとうとうもてあましてしまって、稽古を延ばして音絵を帰らせた。
名器「玉山」を盗まれた哲也は茫然と歌寿の家にやって来てたが帰って行く音絵の姿を見ると、歌寿に「音絵を取り持ってくれ」と頼み入った。
歌寿は「ともかくもお嬢さんのお心をきいてみましょう」と逃げた。
哲也は更に「雪」を教えてくれとせがんだ。
歌寿は不承不承に教え初めたが又中止して「玉山はどうなさいましたか」と尋ねた。
哲也は青眼鏡の賊に盗まれたと答えた。
歌寿は嘆息して涙を流した。あの竹でなくて「雪」の趣は吹けないと云った。
表で立ち聞きをしていた音絵はホッとため息をして去った。
哲也は失望して帰った。
「尺八の名器玉山を発見したものには金一千円を与える」という広告が間もなく赤島家の名で新聞に掲載された。
―― 11[#「11」は縦中横] ――
その夜養策が外出の留守中、音絵は独《ひとり》で「雪」を弾いていた。
すると誰とも知れず表を尺八で合せて行くものがあった。
音絵は琴を弾きさしたまま表に駈け出したがもうそれらしい人
前へ
次へ
全48ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング