が、今日では処《ところ》構わず爆弾を取り落すような悲しい民族的精神となり果てた。
亜米利加《アメリカ》はそれでも飽き足らずに、今度は日本に鉄筋コンクリートというものを教えてくれた。
「地震位に恐れて、そんな燐寸《マッチ》箱みたいな家に縮こまってる必要はない。学理と実際の研究で生み出された鉄筋コンクリートの力は、絶対に信用してよろしい。日本中が引っくり返っても、これだけは残る」
と宣伝した。
日本の建築界は浦賀の大砲以上に仰天した。
日本の博士、技師、請負師なぞの歓迎ぶりと来たら大変なものであった。何しろ学理と数字の上の云いわけは世界に劣らぬが、実際上の損害賠償は一切しないというのが、博士や技師の道徳である。その又博士や技師に一切の責任を負わせて仕事をするのが、請負師の習慣と来ているから堪らない。金は取り放題、責任はアメリカへというので、腕に撚《より》をかけると、ここ東京の丸の内、日本丸の機関部という、堂々青天を摩する大建築を並べた。その中《うち》で最新式|請合《うけあい》付きのものが、曰《いわ》く「内外ビル」、曰く「東京会館」、曰く「有楽館」、曰く「丸ビル」、曰く「郵船ビル」…
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