あるのを見ると、真に涙ぐましい程の心強さと嬉しさを感じさせられる。
 併し又、バラックの眺望は一種の哀愁をも漂わしている。
 昔の東京の眺めは何となく奥床しいところがあった。彼《か》の青黒く影絵のように並んだ屋根瓦の一つ一つにも、徳川から明治まで何百年かの歴史の重みが結び付いていた。云い表わし難い情緒が流れていた。
 それが今のバラックにはない。その色の安っぽさ、毒々しさを通じて、只《ただ》生存競争、見かけばかりといったような、さもしい浅墓な気持ちしか感ぜられぬ。
 しかしこれ等の感想のどれが中《あた》っているかは、まだ容易に断定出来ない。
 今度は山を降って下町をあるきまわる。

     鉄コンクリの悲哀

 下町に来てまっ先に眼に付くものは、丸の内に並んだ大建築である。そこに暴露された鉄筋コンクリートの悲哀である。
 余談に亘るが、世界中で亜米利加《アメリカ》位オセッカイな国はあるまいと思われる。
 先ず嘉永六年に日本に来て、浦賀の港で大砲というものをブッ放して、「文明開化」という珍らしいものを教えてくれた。慌て者の日本人はすっかり驚いて、日本《やまと》魂までデングリ返らせた結果
前へ 次へ
全191ページ中95ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング