ねじ据わった大道良太クンが、なかなか座り腰の強いことであった。部下がストライキを起しても、新聞で嘲られても恬《てん》として知らぬ顔で、あべこべに盛《さかん》に熱を吹いて、「俯仰天地に愧《は》じぬ」とか、「断じて市会議員を買収したおぼえはない」とか云っていた。
 その口の下から、怪しい市会議員がドシドシ検事局へ引っぱられた。そうして買収された罪状が一々明白になったにも拘らず、大道局長は依然として反《そ》り身《み》になって、例の鼻眼鏡を光らしていた。
 サア、みんなわからなくなって来た。見様《みよう》によっては永田が意気地なしで、大道がシッカリしているようにも見える。とにかく門鉄局長以来、好人物の小才子で通って来た大道良太先生に、どうしてあれだけの糞度胸があるのだろうとみんな舌を捲いた。
 すると又わからないことが出てきた。
 後任市長が無いというので、方々《ほうぼう》の人格者や名望家なぞに市会の銓衡《せんこう》委員が押しかけてまわったが、みんな体《てい》よく断られた。その断りかたがいずれも奥歯に物の挟まったように叮嚀《ていねい》で、何だか「東京市長になるのは一大の恥辱です」という、恥辱の
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