理解も存在しないのだから」
東京市民の大部分は皆驚いた。そうして変に思った。
東京市長永田秀次郎氏は、後藤新平氏のあとを受け継いで東京市長の椅子に座ると間もなく、彼《か》の大変災に出会った。高知の富豪の子で、人格者で、大男で、文芸趣味に造詣《ぞうけい》が深く、寝ころんでも愉快に生涯を送れる身分でありながら、七面倒臭い東京の市長になって、兎《と》も角《かく》も利欲に眼をくれず、どっちかといえば大した過ちもなく、あれだけの世話を焼き通して来たところを見ると、余程の自信と覚悟とがあったものと見なければならぬ。それが市区改正の大事業……言葉を換えて云えば東京の改造……否、寧ろ日本文化の中心改造という大仕事を眼の前に控えながら、高が一局長の椅子に市会が押し上げた人物が気に入らぬ位の事で、市長の椅子を蹴飛ばす程短気であろうとは、誰しも想像し得ないところであっただろう。
永田氏が去ると同時に、その部下の有力者数名もバタバタと辞表を出して椅子を離れたので、東京は首無し死体どころではない。首から上が抜けてしまって、一時ヨイヨイのようになってしまった。
も一つ驚いたことには、新たに電気局長の椅子に
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