。秋の日と、赤トンボの流るる東京郊外から、牛込の宿まで帰りながら考えた。そうして思い切ってこの筆を執《と》りはじめたことであった。
 勿論これが記者の見たり聴いたりした全部ではない。その大体の概念だけ(たとえば市政の項)、又はその一部の要点の中で面白いところ(たとえば不良少女の手紙)だけである。あまり深く突込めないところもあるし、又いくら書いても書き切れないところもあるからである。唯これに依って、新しい東京の裏面が如何に浅ましく、悲しく、奇怪なものであるかということを読者に印象せしめ得れば、記者の望みは足りるのである。

     市長|更迭《こうてつ》の表裏

 ジャンジャンジャンジャンジャン、「東京市長の辞職……」
 という声をきいて、車の窓から買って見る。
「大道良太氏東京電気局長に就任と共に市長永田秀次郎氏の辞表提出云々」
 と大みだしが付いて、永田市長の談が掲載してある。
「只今東京市長の椅子を去るのは実に遺憾千万である。殊に市街の整備を理想的にやるつもりでいたのが出来なかったのは千秋の恨みである。しかし止むを得ない。更迭した電気局長即ち市の重要機関の首脳者と僕との間に何等の
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