は一切の他国人の趣味を軽蔑した。そこには、彼等が日本中で最高の人種である「天下の町人」だというプライドが、云わず語らずのうちに流れていたのである。

     プロ文化の末路

 しかしこうした江戸草創時代の元気横溢した平民の気象――逃げ水を追《おい》つつまきつつ家を建てた時代の芳烈な彼等の意気組は、太平が続くに連れて、次第に頽廃的傾向即ちブル気分を帯びて来た。
 彼等が「江戸ッ子」という集団を作って江戸の町々に根を卸《おろ》して、最早どんな偉い人様が来ても彼等の前に頭が上らぬとなると、彼等は永久に彼等を踏み付けると同時に、自然仲間同士でもプライドの競争を始めることとなった。
 彼等はその御自慢の性格や趣味を弥《いや》が上にも向上さして、あらん限りののぼせ方をした。その結果、その云うことやすることがみんな上《うわ》ずって、真実味が欠けて来た。うわべは昔以上に生気溌剌たるものがあるようで、実は付け元気や空威張りになって来た。
 彼等の負けぬ気は口先ばかりの腸《はらわた》無しとなった。彼等の奇麗好きはカンシャクとなった。率直が気早となり、単純が早飲み込みとなり、無造作が無執着となった。
 
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