彼等の中ッ腹は無知、無定見の辛棒無し……つまり無鉄砲の異名となった。江戸前の気象というのは、只《ただ》鼻の先の事にばかりカッと逆上《のぼ》せあがる、又はほんの一刹那の興味ばかりを生命《いのち》よりも大切がって、あとはどうでもいいという上っ調子を云うことになって来た。
熱い湯に這入れぬと云って山の手のものを軽蔑した。洒落《しゃれ》がわからぬと云って学者を馬鹿にした。話が早わかりせぬと云って算盤《そろばん》を取るものを仲間外れにした。十両の花火のパッと消えて行くのを喜び、初|松魚《がつお》に身代を投げ出し、明神のお祭りに借金を質に置いた。
彼等の平民的性格の中にこうしたブル気分が流れ込んだ原因の中には、天下泰平から来た武士の無力と、彼等の富の膨張も勿論加わっているのであるが、とにかくこうして彼等の気象の中《うち》には次第に亡国的気分があらわれて来たのである。
トドのつまり、彼等は六ヶしいことがわからないのを誇りとするようになった。政治向きのこと、法律のこと、経済のこと、物の道理や筋道……そんなジミな、シッカリしたようなことはかいもくわからぬ単純さを、江戸ッ子の自慢にするようになった。
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