わる武蔵野の、原には尽きぬ黄金草《こがねぐさ》――土一升に金《かね》一升、金の生《な》る木の植えどころ――百万石も剣菱も、すれちがいゆく日本橋――。
 こうした太平繁華の気分は、日本諸国の集まる勢を夢のように酔わした。
 その中に行わるる激烈な生存競争は、彼等の神経を「生き馬の目を抜く」までにとんがらした。
 この競争に打ち勝って、この盛り場に生存し得るという誇りは、彼等の感情を「誰だと思う、つがもねえ」まで昂ぶらせた。
 こうして日本民族の中に選《よ》りに選った勝気な、飲み込みの早い、神経過敏な連中ばかりが、この新たに出来た平民の生存競争に居残って、益《ますます》その平民的なプライドを高め、町人的|日本《やまと》魂を磨いて行った。
 奇麗好き、率直、無造作なぞいう性格は極度にまで洗練されて、所謂江戸ッ子の中ッ腹となって現われた。
 趣味の方も同様であった。気の利いたもの、乙なもの、眼に見えずに凝ったもの、アッサリしたものなぞいう、彼等の鋭い神経にだけ理解されるような生活品や見物《みもの》、ききものがもてはやされた。そうして、そんな趣味のわからぬ者を、彼等は一切馬鹿にした。
 事実彼等
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