して行く途中と見ているのかも知れぬ。

     亡国的避難民根性

 たとい、これを彼等「江戸ッ子」が息を吹き返しつつある一時の現象と見ても、最早《もはや》非常な立ち後《おく》れになっていることはたしかである。彼等が今から如何に猛烈な馬力をかけても、この滔々《とうとう》としてみなぎり渡る新しい東京人の勢力には到底|敵《かな》うまい。
 過去何百年の太平に依って洗練された、極めてデリケートな彼等の趣味と生活とは、もう見る見る中《うち》に、新しい荒っぽい新東京人の生活と趣味に圧倒されてしまいつつある。
 彼等の大好きな芝居や、浪花節《なにわぶし》や、寄席がだんだん這入らなくなって来る。江戸趣味の喰い物店、又は渋い趣味のものを売るいろいろの店なぞが、次第に、ケバケバしい硝子《ガラス》瓶を並べた酒場《バー》やカフェー、毒々しい彩りを並べたショーウインドに追いまくられて行く。気の利いた凝った趣のあるビラ、昔風のなつかし味のある簡素な看板なぞは、活動や、缶詰や、最新流行洋式雑貨なぞのデコデコのポスターに蔽い隠されて行く。同じ絵葉書屋の店でも、芸妓や役者の写真は何となく光らなくなって、汚い歯をむき
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