出した活動男優や、化け物みたいな女優のソレが日に増し幅を利かして来る。
こうした現象は、新東京の街をあるく人の眼にイヤでも這入るところで、彼等の勢力が次第に弱って行く気持ちを、云わず語らずのうちにあらわしているのではあるまいか。
いずれにせよ彼等江戸ッ子は、こうして精神的、物質的に無力になりかけていると見ねばならぬ。殊に避難バラックの住民の多数を占めている「江戸ッ子」が最近に見せている気分は、この気味合いを最も明らかに見せているので、一言で云えば、唯呆れ返るほかはないのである。
彼等は避難民バラックに居て、芸者を落籍《ひか》せて、茶の湯をやり、毎朝ヒゲを剃り、上酒を飲み、新しいにおいのするメクの股引を穿《は》いて出かけるだけの生活の余裕を持っている。これはその筋のしらべであるが、彼等の中では百五十円以上の金を取るものがザラにあるそうである。
ところが、一度当局の立ち退き命令にぶつかると、彼等の態度は俄《にわか》にちぢこまってしまう。
「おまえたちはみんな相当の収入があるではないか。もう立ち退けぬことはあるまい。今は不景気で家賃も高価《たか》くないから、そんなに困ることはあるまい
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