も、眼玉を剥いても、だれも相手にしなくなった。
 こうなると彼等はスッカリ意気地がなくなってしまう。彼等は、今まで軽蔑し切っていた宵越しの銭をためる連中と一所《いっしょ》に、往来に並んでお救《すく》い米《まい》を貰わなければならなかった。焼けたトタンを以って乞食小屋を作らなければならなかった。そうして何でもかんでも喰うために働かなければならなかった。引き続いて地震がガラガラと来るたんびに、彼等はとりあえず宵越しの喰い物を準備しなければならなかった。
 彼等の気概やプライドは、こうしてすっかりタタキつぶされてしまった。彼等がこのパスを誇りとしていただけ、それだけ屁古垂《へこた》れ方もヒドかった。彼等はとうとうまずいものを喰って、安ッポい身のまわりで我慢する気になってしまった。パスの代りに宵越しの銭をためねばならなくなった。
 但、これは当分の間だけで、彼等は遠からず、昔の景気に帰るのかも知れぬ。彼等の居どころがあらかたきまって、「かお」のパスが利くようになれば、昔のようにタンカを切り、肩で風を切るようになるので、結局、江戸ッ子復興の途中にあるのかも知れぬ。
 それを記者は、江戸ッ子が衰滅
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