戸ッ子が如何に痩せ我慢で高く止まっていても、彼《か》の昨年の大変災に出会っては、かいもく[#「かいもく」に傍点]意気地がなくなったは止むを得ないところであろう。彼等はほかの非江戸ッ子……上は成金から下は乞食まで、あらゆる種類階級の人々と共に、一様に阿鼻叫喚の巷《ちまた》にさまようた。御同様に抱き合い、わめき合って、助かったり、死んだりした。
死んだのはいいとして、助かったものはほかの非江戸ッ子以上に困ることになった。……というのは彼等の「かお」が利かなくなった事である。利くにも利かぬにも、町は茫々たる焼け野原となり、どっちを見ても見ず知らずの赤の他人となって、泣いてもわめいても追っ付かなくなったことである。
宵越しの銭溜め
東京に住んだ人は知っているであろう。壁一重向うは赤の他人である。引っ越しソバを配るだけの義理が済めば、あとはどこの馬の骨か牛の糞かといった風である。うっかりすると、借りたおして引っ越しされるような心配があるかと思うと、隣の喧嘩を二階から見ている冷やかな面白さもある。これを極端に云うと、「人を見たら泥棒」式で、すべてのつき合いが何となく現金式である。
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