た田舎っペイは、この一年の間に潮の如く東京市を眼がけて押寄せて来た。実に素晴らしい勢であった。
彼等は生え抜きの江戸ッ子のように贅沢でなかった。その趣味は浅草程度で充分であった。彼等は古い江戸ッ子がバラック趣味を軽蔑し、オツな喰い物、意気な音締《ねじ》め、粋な風俗の絶滅を悲しんで、イヤになって引っ込んでいる間に、ドンドン彼等の趣味を東京市中に横溢させている。彼等の御機嫌を取るべく、東京市中到るところに流れ出て来た浅草趣味、又は亜米利加《アメリカ》風――安ッポイ、甘ったるい、毒々しいものに満足して、ドンドン東京の繁栄を作るべく働き始めた。
彼等の耳には、江戸ッ子ということが、最早《もはや》古い時代の人間としか響かなくなっている。江戸趣味というものは、骨董的の価値しかないもののように考えられている。彼等はもうすっかり江戸ッ子を葬り去っているかのように見える。
これに対して江戸ッ子は何等の反抗を企てようとしない。否、反抗力も何もなくなって、只《ただ》納豆売りの声や、支那ソバのチャルメラの声に昔の夢を思い出して満足しているように見える。
しかしこれには又無理からぬわけがある。
彼等江
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