せった》を素足で踏み、帷子《かたびら》に背当て尻当てをするのを恥辱とした、彼等の気前はどこにあるであろう。魚河岸ではしゃいでいる連中は、みんな見かけだけの江戸ッ子で、中味は「ヒマシ」になってしまったのか。そういえば、彼等のかけ声には昔のような中ッ腹式の威勢がなく、彼等の眼の光りも昔のようにキラリと光らないように見える。しかも何がしのパリパリでさえこうだから、他は推して知るべしだと思った。
しかし……と又もや記者は考え直した。記者の観察にはまだ不充分なところが沢山にある。
第一、記者がお見舞いした前記の喰い物店は、上等のところのつもりで、実はなっていない処ばかりだったかも知れぬ。又、魚河岸付近の店は、本物の江戸ッ子相手ではなく、江戸ッ子の中に立ち交った新分子ばかりを相手にしているのかも知れぬ。
さもなくとも、記者が江戸ッ子を主眼として見てまわったのは、僅かの時日である。勿論、始終気をつけるにはつけていたが、本気に見てまわったのは二日か三日で、かなりの大急行である。震災後の江戸ッ子の真面目な活躍ぶり、もしくは生活ぶりを見聞できる時間をはずしてばかりあるいたかも知れぬ。
これで江戸ッ
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