子の滅亡をたしかめようというのはちっと気が早過ぎる。うっかりするとどこからか拳固が飛んで来るかも知れぬ。
 まだある。
 記者が見てまわったのは、震災前江戸ッ子の住んでいたところばかり。そのほかのところは調べてない。つまり今まで目標として研究したのは純プロ階級の江戸ッ子……熊公、与太郎、ガラッパチの旧跡で、ブル階級のそれではない。
 ブル階級の江戸ッ子……すなわち御隠居や若旦那の一人二人、鳶《とび》の頭《かしら》位はいつでも飼っておくからという連中は、もうとっくの昔に東京目抜の通りに帰って来て、古いのれんの蔭から盛に芽を吹いている。そうした大《おお》どこの旦那衆や親方たちの御蔭で東京に帰って来て、新しい、又は昔の商売をやっている江戸ッ子は随分居る筈である。
 まだある。
 昨年の震火災のあと、プロ階級の江戸ッ子はチリヂリバラバラになった。故郷の親戚に便《たよ》って逃げて行ったのもあれば、市から建てたバラックに逃げ込んだのもある。又は郊外に避難小舎を建てて、そのまま居据《いすわ》ったのもあるであろう。そんなのが、どれ位東京に引っ返して来て、どんな風に散らばって、どんな生活をしているかはま
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