すよ。不景気でね。おまけに震災後手が足りないってんで、方々から来た人間を使っているんでね」と苦笑していた。記者は折角喰った丼が胸につかえるような気がするのを、流石にこれだけは昔のままの、濃い熱い「お煮花《にえばな》」で流し込んでここを出た。
江戸ッ子の喰い物は田舎者の口や眼にもわかる位安っぽくなっている――「熊公八公の滅亡」という感じが直覚的に頭に浮かんだのはこの時であった。
どこからか拳骨が
しかし……と記者は又考え直した。
こんな上っ面の見方ばかりでは駄目である。「わかりもしない癖に」と笑われそうな気がする。そこで今度は本願寺の横を河岸へかけて、この辺一帯に並んでいる小間物屋、仕立て屋、そのほかいろんな店を一々のぞいて見た。
今度はよくわかった。喰い物の方は別としても、雑貨や何かの方は手に取って見ればわかる。否、手に取って見なくても、一わたりズラリと見ただけで、安っぽい店かどうかすぐにわかる。
……記者は江戸ッ子の衰亡を眼《ま》のあたり見せ付けられたような気がした。彼等はこんな見かけだおしの安物で満足しているのかと思うと、つくづく情けなくなった。十円の雪駄《
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