ある。
塩せんべいは大枚十銭がものを買って噛《か》じって見たが、焼き加減にムラのあるのがよくわかった。
ソバ屋へ這入って見たが、ツユの味なぞは福岡あたりのよりおいしいと思った。薬味のネギの中に古葉と新葉とあるのが、百姓だけにすぐ気が付いた。モリやカケはあまり売れず、弁当代りと見えておかめなんぞよく売れると聴いた。天麩羅《てんぷら》もよく喰われるそうであるが、そんな意味なり随分あじけない話だと思った。
それから大奮発をして、この辺で一番上等だという小さなうなぎ屋に這入って、丼《どんぶり》を喰いながら店の若い衆に聴いて見たら、大串、中串、小串のどれでも、別に八釜《やかま》しい注文はあまりない。「アライところで一本」なぞいう御定連《ごじょうれん》は無いと云った方が早いくらい。しかも鰻《うなぎ》は千葉から来るのだと、団扇《うちわ》片手の若い衆が妙な顔をして答えた。
「本牧《ほんもく》から洲崎あたりのピンピンしたのは来ないのかい」と通らしい顔をして聴いたら、若い衆は「エエ」とニヤニヤ笑いながら返事をしなかった。念のため、「お客はみんな河岸のだろうね」と聴いたら、「ええ、だけどこの節は駄目で
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