に、一日も早く『江戸ッ子』になりたがっているんだよ。彼等は云わず語らずのうちにこう思っているんだよ……日本中の人間が、あの頼もしい、サッパリした『江戸ッ子』みたいになったら、どんなに嬉しかろう。日本はどんなに強い美しい国になるだろう。早く東京へ行って、文化的自覚の洗礼を受けて、『江戸ッ子』になって帰りたい。そうして田舎のシミッタレた無自覚さを片っ端から眼ざめさしてやりたい……と胸をドキドキさせているんだよ」

     新日本赤化主義

「だから田舎はだめだというんだ」
 と或る文士は云った。
「田舎は唯『江戸ッ子』という言葉の感じだけを崇拝しているんだ。ベランメー語の威勢に驚いてるんだから駄目だよ。江戸ッ子という言葉の強みや、頼もしい感じをそのまま体現した『江戸ッ子』は一人も居ないんだよ。
 それあ、江戸ッ子の垢《あか》の抜けた個人主義と神経過敏とは、どこの人間でも敵《かな》いっこないさ。それを田舎者は矢鱈《やたら》に崇拝するから困るんだ……。
 見たまえ!
 苟《いやしく》も江戸ッ子を以て自ら任ずる者で、二重橋にお辞儀をするものは一人もあるまい。馬鹿馬鹿しい……そんなのが忠義じゃな
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