選手なぞと心安ければ、現代式東京人としては申し分のない資格が付く。況《いわ》んや女優と片言でも話をしたとなれば、新人として無上の尊敬を受けるであろう。
 こんな連中がバラック町を横行して、ムッとする位新しい東京気分を作りつつあるので、東京市はまるで生れかわって、古い江戸ッ子は絶滅したかとは思われる位である。
 とはいえ、古い「江戸ッ子」も居るには居る。ただ北海道のアイヌ人が、日本人に圧迫されて次第に衰滅して行くように、彼等も現在の新しい東京人に押されて、衰滅の一路を辿っていることは疑われぬ。殊にその衰滅の速度が、昨年の震災を一期として、著しく早くなったことは一層明白な事実である。
 記者は新しい東京人の裏面を研究する茲《ここ》に、順序として古い江戸ッ子の末路を弔《とむら》わねばならぬ。
 記者は所要で東京に行くうちに、かなり江戸ッ子や江戸通の知人が出来た。そのために直接間接に「江戸ッ子」なるものに対して興味を持つようになったのであるが、不思議な事に記者の知り合いの江戸ッ子や江戸通に限って、屡《しばしば》「江戸ッ子滅亡論」を口にするのであった。
 その議論の根拠をきいて見ると、
[#ここ
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