実は、やがて大和民族衰亡の警鐘を乱打していることになるのではあるまいか。
否、これは疑問でない。明白な事実である。新東京の秋深きところ、十字街頭の見聞と所感が、自らここに落ちて来るのを拒否することが出来なかったのである。
自己を嘲ける勿《なか》れ
東京のバラック町をウジャウジャあるいている人間を、大別して二つにわける。古い江戸ッ子と新しい江戸ッ子と……。
古い江戸ッ子というのは、講談や落語に出て来るアレであるが、新しい「江戸ッ子」というのはどんなのか。
これはなかなか説明しにくいが、手早く云えば、「江戸ッ子」というよりも「現代東京人」と云った方がわかり易い。震災後各地から押寄せて……又は前から居残って、新しい東京の気分を作りつつある連中で、江戸前の風味なぞはあまりかえり見ない。乙《おつ》な洋食や支那料理、凝ったアイスクリームを求め、カフェー女の本名を探り、ヤゾーを作って大向うから怒鳴る代りに、亜米利加《アメリカ》ものや新派の甘い筋に手をたたき、歌沢の心意気よりも、マンドリンに合わせた「籠の鳥」のレコードを買う。もし一人か二人の社会主義者、某署の刑事、有名な芸術家や
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