るであろう。
 今度の震火災を機会に、浅草千束町の醜業窟が一掃されたという。行って見ると、成る程無い。只《ただ》果物なぞを売っている店が十五六軒並んでいるばかりである。当局者は云う。
「こうして大いに東京市内の風紀を改善するのです。彼等がもし醜業を営んだことがわかれば、一月近く拘留した上に写真を撮って、二度と再び営業出来ないようにするのです。元来浅草区はこれ等醜業婦のために拭うべからざる汚名を受けているのです。浅草区役所の収入の大部分は彼等醜業婦が持っているのだとか、浅草に来る警官はみんな彼等から袖の下を貰ってぜいたく[#「ぜいたく」に傍点]をしているとか、浅草区から立つ候補者は醜業を理解しなければ立つ資格が無いとか云われていたものですが、そんな世間の誤解を一掃するには昨年の震火災が絶好の機会でした」
 云々と大得意になっている。
 その追い立てられた醜業婦が立ち去ったところ、又そのあとに当局の所謂「一掃された」という言葉を裏切って続々と殖《ふ》えている怪しい女の事に就いては、後の研究問題に楽しんでおくとして、取りあえず浅草の新券番に行って、芸妓の名寄《なよ》せを取って見ると六百名ばか
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