って本郷、神田辺へ行って見ると、居るには居るが、それでも震災前よりは制服制帽の数が尠《すくな》い。早稲田や三田へ行くと、制服鳥打帽すらチラリホラリとしている位のことである。尤もこの辺は学校の近くだから、これは学生だなあと気が付き易いが、その他の処へ行くと余程気を付けないと学生とは気付かない位である。
昔のような長い釣鐘マントはもう流行|後《おく》れになってしまって、オーバーを着ていなければトテモ幅が利かない。しかも学生のオーバーと来ると、普通の腰弁のよりも上等なのが多く、これに鳥打を冠って襟巻でもしていれば、黒いズボンに気が付かない以上、ドッチから見ても堂々たる紳士か貴公子である。
ところがこの頃は又、私立大学仲間で変りズボンを穿き出した。しかも裾のマクレたのが流行《はや》るので、いよいよ学生だか何だかわからなくなった。おまけに鞄《かばん》まで鞣皮《なめしがわ》製の素晴らしいのが出来て来たので、最早《もはや》学生と見えるところは一ヶ所もない。只オーバーの下に隠れた金|釦《ボタン》だけという事になる。それでもまだ学生らしくなくするために、鞄を棄てて、書物やノートをポケットに入れて、指
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