環をはめたりステッキを持ったりする。
そんなに制帽が気に入らないのなら、寧《いっそ》の事制服までやめてしまって、背広か何かにしたらよさそうであるが、それは又そう行かない理由がある。
「アラチョイト、あなた学生さん? 可愛いわね!」
てな声を聞きたいために、時々金釦を光らかして見せなければならないからである。今一つには給仕や安腰弁と見られないためもあろうし、も一つには上等の学問をしているエライ人の卵で、金を持っている時は、気前よく使う人種であるという事を、先方に合点させる必要があるかららしい。
これを要するに、東京の学生はみんな出来るだけ制帽を冠るまい、鳥打帽を冠ろうと心掛けているので、トドのつまり東京で朝から晩まで真面目に制帽を冠っているのは、浅草の仲見世や縁日に出て来る物売りの角帽だけと云っても過言でない。
余談に亘るが、こうした傾向は単に学生ばかりではない。日本全般のすべての方面にあらわれていて、云わず語らずの中《うち》に日本人全般の思想が或る重大な変化を来しつつある事を示している。
皇室では恐れ多い事ながら成るべく民衆に親しく御接し遊ばすよう、すべての形式を御改廃中とか
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