する。
 当り前に正しくすこし前下がりに冠るのは、当り前のすこし前下がりの外出の場合であるが、横っチョに冠るのは見もの聞き物に這入る場合、カフェーの中では阿弥陀に冠り、運動遊戯ではうしろ向きにかぶる。それからずっと目深く、うしろはボンノクボから前は眼から耳まで隠れるように冠る場合は、秘密の外出か訪問、又は変装用で、これに襟巻きをしてロイド眼鏡でもかけて首をちぢめると、ドンな名探偵でも誤魔化《ごまか》し得るという迷信から来たものである。
 更にその鳥打帽の下に這入っている香水入りのハンケチの種類、その隅《すみ》に縫い込んである文字の意義、そのハンケチの香《におい》に沁《し》みている頭の苅り方、その頭の香《におい》に沁みたハンケチと、女の内懐の香《におい》に沁みたハンケチとがどんな処で交換されて、どんな風に尊重されるか、こんな研究はあまり脱線し過ぎるからここでは略する。
 鳥打帽と関連して、東京の学生の生活を街頭に示しているのはその服装である。
 今度東京に来て暫くウロ付いているうちに、記者は不図《ふと》妙な事に気が付いた。どうも往来を歩く学生の数が震災前よりもすくないようである。変だと思
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