を見せているのであろう。
 進化か退化か知らないが、東京人がこうまで魘《おび》えてちぢこまっているかと思うと情なくもある。東京の新聞に大きな標題《みだし》を付けた地震の学説がこの頃まで出ているところを見ると、こんな知識階級のビクビク加減は地方人の想像以上であるらしい。
 着物道楽……独身主義の延長……という、虚栄に囚われた女にでもありそうな傾向が男の中に流行している……女は無論の事……というこの二ツが東京にどれだけの独身生活者を殖やしているか、そうしてそれがどれ位まで東京の風俗を乱しているかは、話の筋をそれるから後まわしにする。
 扨《さて》……こんな着物道楽の連中がいよいよ身のまわりを充実さして、新しい「アアラ吾が君」と同棲したとなると、今度は文化生活が理想となって来る。
 つまり着物道楽は独身者《ひとりもの》の心理表現で、文化生活は夫婦者の理想の発表とでも定義しようか。

     文化とは「ブル化」?

 東京人の憧憬する文化生活を研究するには、先ず「文化」という言葉の定義からきめてかからねばならぬ。
 文化という言葉はバラックと同様あんまり有触れ過ぎて、どんな事を意味するのか訳
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