昔と違うのである。東京市中の最大と称する以下の商店は全部が全部、広告戦の人呼び戦と云って差支えない。その中で昔風の商売振りをしてこの風潮に対抗しているのは、前記の大商店だけと云ってもいい位である。
言葉を換えて、東京の商売の中心である下町の商売振りは、全然バラック式になったと云う方がわかりいいであろう。実例を挙げるまでもあるまいが、眼に止まったままを前後お構いなしに左に掲げて見る。
「最新の学説である問題の『若返り法』はわざわざ九州クンダリまでお出《いで》にならずとも当店で達せられます。当店の最新流行の衣裳をお召しになれば……」
云々の大文字をお祭の大|燈籠《どうろう》位の箱に書いて、下に禿頭と大|丸髷《まるまげ》が狸《たぬき》と手を引合ってダンスをやっている絵が描いてあるかと思うと、家伝「禿頭病専門名薬」という広告が何かの新聞に出ていた。いずれも九州帝国大学の向うを張ったものらしく、ここに書くのも失礼な位である。
序《ついで》にお医者様の方を挙げると、或るお医者様は排米問題が起るとすぐに、表に「米国人の診察お断り」という張り札をして都人士の眼を驚かした。その註に曰《いわ》く……
前へ
次へ
全191ページ中138ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング