その売れ残りの特徴を聞いてみたら、各区民の生活状態を考えるために面白い材料になるだろうと思ったが、あまり大袈裟になりそうなのでやめにした。
広告を見てもこの傾向――新東京人の勢力がわかる。
先ず東京市内の大商店の広告をいろいろ見比べて見ると、第一に信用戦で暖簾《のれん》を守り、次第に流行戦に移って他を圧倒してやろうという気合いが見える。
或る呉服屋が一流どころの画家を集めて裾模様の展覧会を遣ると、一方では西陣の腕ッコキ連を呼び出して友禅染の品評会をやるといった調子である。出来る限り一般の批評に訴えて信用ある仕事をしたいという傾向が、震災後すべての方面に見えるが、これなぞもその一つであろう。
この辺まではまだ民衆的といいながら上品な方で、東京カブレをした田舎者釣りという気持ちがすくない。つまりバラック気分が薄い方であるが、この以下となるとそうした気味合いが特に露骨になって、地方人の眼をまわすような実例が到る処に発見される。
尤も東京は元来こうした処で、何も今更驚くには当らぬと思う人があるかも知れぬ。又実際その通りであるが、只その風《ふう》がバラック以来東京の全市に拡がっただけが
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