い事を証明しているが、更に一層ハッキリと説明するものは前に述べた縁日商人の口上である。

     大貴金属商の失敗

「どうだい、本型の友禅だ。しかも最新流行の埃及《エジプト》模様と来ている。京都の織元で織り上げたところで疵《きず》が出来たから、こうして切って売るんだ。一丈五尺以上あるんだから、帯の片側と繻絆《じゅばん》の袖位は楽に取れる。バラックの窓かけにでもしたら素敵なものが出来る。手土産にして大したもんだ。一尺の元値が三十銭だから、これだけで四円五十銭になるんだが、負けて三円……二円半……エエ、ヤッチマエ……二円だ……一円八十……」
「甲州産の水晶は世に定評あるところ、殊に印形となりますと、水晶のに限って贋ものが出来ませんから、まことに重宝で御座います。この節のお仕事を遊ばすには、印形ほど大切なものは御座いません。水晶の印をお用いになれば、彼《か》の新聞に出まするような恐ろしい詐欺や横領、その他文明社会に流行しまする法律悪用の悪漢の毒牙にかかる患いは一切ございません。わけてもこの東京に於てお仕事を遊ばすお方様には、特におすすめ致します。指紋は間違うとも、水晶の印だけは間違わぬ。
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