昌をして御座るのだから恐ろしい。おまけに御本体が一寸八分の黄金仏だとも云うし、木仏だとも云う。本当に御座るか御座らないか、それすらわからないのだから驚き入るほかはない。理想的と云っても現実的と云っても、天下これ以上の商法の名人はあるまい。
犬と羊と熊の皮
扨《さて》……観音様の商売振りには及びもないが、日本中の商店が浅草式の「無言正札」で、時間と人間経済の現代式一点張りになったとする。そうしたら只さえ人口過剰の日本は、フン詰まりになりはしまいかと云う人がないとも限らぬが、「心配無用」……。
雷門をくぐって、観音様の前を左へ行くとすぐにわかる。
第六区へ行く途中の往来に茣蓙《ござ》を敷いて、白や黒や茶色の毛皮を十五六枚並べる。その上に日に焼けた若い男が前垂れをかけて鳥打を冠って、しきりにベランメー語を高潮している。
「どれでも構わねえ、手に取って見ておくんなさい。正真正銘の熊の皮が犬や猫の皮とおんなじ[#「おんなじ」に傍点]値で買えるんだから、安いと思ったら持ってっとくんなさい。二枚か三枚はけ[#「はけ」に傍点]れあ、あっし[#「あっし」に傍点]等《ら》あ帰《け》える
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