二字を光栄という言葉に取りかえて云っているように思われた。
 それはまあいいとして、最後に前の東京市長、今の日露政治ブローカー後藤新平の処へ持って行くと、一度断られ、二度ことわられ、それでも三度まで持って行くと矢っ張りことわられた揚句《あげく》、「余が東京市を愛するのは、市長となって愛するよりも、市民として愛した方が適切と思う」というような意味の宣言書を、新平の名前で東京中の新聞に発表されてしまった。「お前の旦那になってやるよりも、情夫《いろ》になって可愛がってやる方が洒落《しゃれ》てるじゃないか」といったようなことわりようである。何だかカラハンあたりから直伝のような響もあるように思われる。
 然るにこの新平さんは実は第一候補で、第二候補はこれも前の満鉄総裁、文豪夏目漱石の友人で、女好きで、酒好きで、ウソかホントか、梅毒で片目をつぶしているという中村是公のオヤジさんであった。そこへ水を向けると一も二もなく承知して、「オヤまあ」と思う間もなく、ノコノコサイサイ永田秀次郎氏があと釜に座ったのが、丁度十月の初旬のことであった。同時に、その間一ヶ月間市長の椅子を空《から》っぽにした責任を負うというので、市会議長の沢田氏が辞職すると大|見得《みえ》を切ったところを、「マアマア」が出て来てゴタゴタさした。
 こうしてやっと東京市の首が出来て、市民も新聞もヤレヤレと云っているうちに、今度は又大変な評判が事実として伝えられた。永田市長が辞職してから以後これまでの出来事は、みんな芝居だというのである。否、永田市長の辞職からして芝居だと云うものすらある。あれだけの大記事や号外を出して、十字街頭の人々を驚かし、電気局の喰うや喰わずの月給日給連に局長反対のストライキまでやらせたのが、みんな芝居だとは、生き馬の眼を抜くどころの騒ぎじゃない。
 恐れ多くも中村東京市長の御裁可書が、内務省と市役所との間で一時|行衛《ゆくえ》不明になって大騒ぎをしたというが、それまでも何かの芝居ではないかと考えられて来る位である。

     あきれた漢語芝居

 ここで又一つわからない事が出来て来る。前の東京市長永田秀次郎氏も、今の東京市長中村是公氏も、それから電気局長の大道|朝臣《あそん》もみんな後藤系のチャキチャキである。だから芝居とすれば、座長が後藤新平で、市会議員中の或る一派が狂言作者でなければならぬが
前へ 次へ
全96ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング