すき間から入れてもらうのですが、もしちょっとでも口を利いたり歌を唄ったりすると、その晩は食べ物が貰えないのです」
「まあ、お可哀相な」
「それで私も我慢して、それからちっとも口を利かずにいましたが、ちょうど日の暮れ方のことでした。お月様が東の山からあがると間もなく、この塔の上から見まわしますと、向うの崖の途中に蔦葛につかまって一人のお嬢さんが降りて来ます」
「まあ……それじゃ、あの時私を助けて下すったのはあなたでしたか」
「いいえ、私ではありませんが、ただ何というあぶないことだろうと思いました。ちょうどその時、私は御飯を貰いに降りて行く時間でしたから、塔の入り口に降りて来まして、御飯を持って来た兵隊に母の妃を呼んでくれるように頼みました。そうして母の妃にソッと、あなたを助けてくれるように願いましたのです。それからあなたがこの城へお着きになると間もなく、あんな恐ろしい目に合ってこの塔の入り口までお出でになって……」
「まあ……それじゃ、私があの蜘蛛に喰べられないようにして下すったのもあなたですね」
「ええ。あの蜘蛛は馬鹿ですから、あなたを糸でグルグル巻きにして塔の中へ隠したのです。それを
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