うして暫《しばら》く考えておりましたが、思い切って、又顔を真赤にしながらこう云いました。
「私は先生に済みませんけれど、夜勉強しないでもよろしゅう御座います。お母様は、試験の前に勉強をして学校がよく出来るのは、本当に出来るのじゃないと云われました。私はほんとうと思います。これからふだんの学課の時間もっともっと気をつけて、先生の教えて下さる事を覚えようと思っています。私が勉強するためにお母さんに御心配かけては済みませんから」
とニッコリ笑いました。
校長さんは思わず露子さんの手を握りしめて涙を流して、
「おお露子さん、よく云って下さった。何卒《どうぞ》あなたがこの学校を出ても……習った事はみんな忘れてしまっても……その心だけはいつまでも忘れずにいて下さい」
校長さんはすぐに露子さんをつれてお家《うち》へ行って、この事を御両親に話されましたら、さすがの意地の悪いお母さんも泣いて露子さんを抱きしめて、
「今まで妾《わたし》が悪う御座いました」
とお父さんや校長さんにお詫《わび》をしました。それから露子さんは間もなく優等で小学校を出て、優等で女学校に這入りました。
女学校に這入ってか
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