当に這入れたのではありませぬ。勉強しないで這入れたのが本当です。まだ尋常四年の癖に生意気な事を云うものではありませぬ」
 こう云って、お母さんは何といっても御承知なさいませんでした。
 露子さんも勉強しないではとても女学校へ這入れまいと思って、泣く泣くだまってしまいました。そうして静かに台所の電気を消して寝ました。
 けれども露子さんは、女学校に這入りたくて這入りたくてたまりませんでした。床に就いてから涙が止《と》め度《ど》なく出て寝られませんでした。
 その中《うち》に近所が静かになると、露子さんは不図妙な音に気がつきました。
 雨戸の真中あたりと思う処から、
「キキリココリ。ククリキキリ。フフリチチリ。リリリツツリ」
 と小さな音が面白く調子よく聞こえて来ます。
 露子さんはそっと起き上って、そっと電気をひねって、音のする方に近寄りました。
 見ると、その雨戸の桟《さん》の上に小さい小さい虫が一匹、洋服を着て眼鏡を掛けて、揺れ椅子に腰をかけて書物を読んでいます。今の音は虫が揺れ椅子をゆする音でした。
 露子さんは驚いて眼をまん丸くしていると、虫は小さな赤い帽子を取って、椅子に腰をか
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