れており、これまで魚の缶詰や魚油の取引をしていることはドレゴも知っていたが、ゼムリヤ号事件に関係しているとは知らなかった。また事実、爆弾事件発生以来も彼は全然無関心な顔をしていたし野次馬連中が争ってヘルナー山頂へ急いだときも、彼はその仲間には加わらず、相変わらず屋根裏に近い彼の部屋にくすぶっていたことをドレゴは知っていた。そのケノフスキーが、エミリーの話から推察すると、いつの間にかゼ号事件の大立者となっているらしいのだ。どうしてそんなことになったのだろうか。
「ドレゴさん、あなたはこの事件を最初に全世界に向って報道した最高名誉を担《にな》っている方でしょう。水戸さんだってそうですわ。それでいながらなぜその名誉を持って、おしまいまで貫かないんでしょう、あんまり残念で私達、横で見ていられないわ」
 一秒を争うといったエミリーがさかんにまくしたてる。
「すぐかけつけてケノフスキーと会見するんです。彼の説はうんと儲かるように買取ってやらねば駄目。これからすぐかけつければ間に合わないこともありませんわ、飛行機が滑走を始めれば、もうお仕舞いですよ」
「ありがとうエミリー」と、ドレゴは本気になって感
前へ 次へ
全184ページ中93ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
丘 丘十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング