謝した。
「それで彼はゼムリヤ号についてどういう地位にあるのかね」
「原子爆弾防衛委員の一人ですわよ。そしてアイスランド海域の監視人なのよ」
「なに、やっぱり原子爆弾か。これはたいへんだ。エミリー、すぐ外へ出ておくれ。僕は湯舟から出るからね」
ドレゴはエミリーを浴室から追い出すと、ゆで蛸《だこ》のように真ッ赤になった身体で立ち上り、タオルで拭うのもそこそこにして服を着かえると、エミリーを自家用車に乗せて駛《はし》り出した。向うところは飛行場だった。
飛行場の傍まで来ると、旅客機は既に砂煙をあげて滑走中だったので、ドレゴもエミリーも歯をぎりぎり噛み合わせて口惜しがった。
ところがドレゴの運が強かったわけか、旅客機は滑走路のはずれまで行っても離陸しないでぐるっと方向転換をし、元の出発点に引返してきた。
事故の原因は、サイド・パイプから油が少々ふきだしたことにあった。そのおかげで、ドレゴは単身機内へ乗込んで、ケノフスキーに面会することができた。かれは、短刀直入に用件を切出した。
ケノフスキーは赤い海象《せいうち》のような顔をゆがめて愕いたが、それでもドレゴの申出を諒解してここでは話
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