群れ集まる数百人の男女の群が、はっきりと双眼鏡の奥に吸い込まれた、いろんな顔が重なっている、ドレゴは、早鐘のように打ちだした自分の心臓を気にしながら、美しい若い女性の顔を探し始めた、花束をその顔と一緒に並べているところの……。
「これはたいへんだ」
ドレゴは呻《うな》った、というわけは花束を抱えている若い女性の数があまりにも多かったから、誰も彼も、美人という美人は花束を持っていたのだ。ドレゴは勇気を鼓して、その美しい顔を丹念に拾っていった。だがどれ一つとして、自分の心当たりのそれがなかった、何遍くりかえして見ても、同じだった。
「ふむ、すばらしいぞ。これは、新しいロマンスの開幕だ」
この夥しい女性のどれが、自分の胸に香りのいい頭髪を押しつけるであろうか、そう思うと、彼は船を乗り越えてざんぶりと海中に飛入り、桟橋までクロオルで泳ぎつきたい衝動に駆られた。
ところが、いよいよ船が桟橋について、彼が舷梯を駆下り、花束美人の真只中へ突入してみたところ、意外にも誰一人として彼の胸に花束を持って飛びついてくる女性がいなかったのである。彼はがっかりした。彼は十五分間に、ねたましいほど仲のいい恋
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