しい魔物の爪がのびかかっているように思えてならなかった。彼はその不吉な幻影を追払おうとして益々盃の度を重ねていった。
さすがに酒に強い彼も、その日の深更に至って遂に倒れ、ボーイたちによって船室へかつぎこまれた。泥のような熟睡に、彼は一切を知らないで約半日を過ごした。
彼が目を覚まして、甲板へ出て来たのは、翌日の正午に近かった。
海の色も空の模様も、もうすっかり様子が変わり、西北の季節風が氷のような冷たさを含んで船橋のあたりから吹き下ろしてくるのだった。彼はぶるぶると慄《ふる》えて、上衣の襟を立てた。
昼食のとき、彼は船長の卓子《テーブル》に席を用意されたので、我意を得たという顔をした。
「船長。昨日以来、ワーナー調査団から何か新しい情報は入らなかったですかね」
早速彼は、気にかかっていたことの質問を出した。
「詳しい情報は何も入らないですよ」
と船長はちらりとドレゴの顔へ視線を走らせて応えた。
「すると、昨日から始めた海底調査の結果なんか、何もいって来ませんかね」
「ええ、たいして詳しいことも」
「あれはうまく行っているんでしょうか」
「さあ……」船長は、ちょっと苦しそうな
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