翻意をするようになったわけは、その前夜、アイスランドから一通の無線電信を受領したことに拠《よ》る。それは差出人が匿名で、ただ“汝の崇拝者より”とあるだけであったが、電文は左のとおりであった。
“愛スルドレゴヨ、コレガ第二ノ警告! ゼ号ノ秘密ハ当地ニ於テ今ヤ解カレル一歩前ニアリ折角ノ名誉ト富ヲ捨テル気カ、スグ帰レ、花ヲ持ツテ待ツ、汝ノ崇拝者ヨリ”
これを受け取ったドレゴは一夜を悩み続けた末、今朝になって、とうとう帰国する気になったのだ。彼は水戸を誘ったが水戸は応じなかった、こうしてオルタの町の仲好しは一時北と南に別れることとなった。水戸はドレゴに花を持って迎えるという彼の崇拝者に対し十分注意を払う様にと忠言することを忘れなかった。
下船のとき、ドレゴは滂沱《ぼうだ》たる涙と共に水戸を抱いて泣いた。彼は帰りたくもあったが、しかし水戸を只ひとりで非常な危険へ追いやることの辛さ故に泣いたのであった。
「水戸。危険な仕事は出来るだけ早く切り上げて、オルタの町へ帰って来てくれ。僕はそれを待っているぞ」
ドレゴは水戸の両頬にいくども熱い口づけを残して、遂に去った。そのとき彼の心に、美しい花束を
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