どうもそれはおかしい。原子爆弾でなくて如何なるものがあんなひどい破壊を生ぜしめるでしょうか。いや、これは素人考えに墮していますかな」
 博士は黙ってホーテンスに対していたが、それから暫くして口を開いた。
「だからわしは、明日海底へ下りることに決心したわけだ」
 ホーテンスは目をぱちくりしたが、すぐ気づいて肯いた。
「なるほど、そうでしたね……いや、僕は今までなんだか原子爆弾の幽霊だけに取憑《とりつか》れていたようだぞ、はて、これはどうしたことだ」

  大海底に着く

 その翌朝、ドレゴは水戸に附き添われて、ワーナー博士の許へ行った。ドレゴは都合により、今日の海底探検に同行することを辞退したいこと、それから彼は出来るだけ早くこの調査団から離れて、アイスランドへ戻りたいことを申述べた。
 博士は、それを聞くとすぐ諒解した。そして護衛艦の一隻が今日、アイスランドへ引返すことになっているから、それに便乗して行ったがいいだろうといって呉れた。そして博士はドレゴがなぜ急に予定を変更したかについて一言も訊《き》きはしなかった。水戸は、博士の肚の太さに対し畏敬の念を生じた。
 実はドレゴが急にこんな
前へ 次へ
全184ページ中78ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
丘 丘十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング