《まさ》に何事かが起らんとしつつあるのだ。それは説明がなくても、勘のいい記者たちには察知せられた。
博士が睨《にら》みつけている電界強度計の指針が、気のせいか微《かす》かに慄《ふる》えているようだ。
余震なき地震
息詰まる緊張の幾秒が尚《なお》も続いた。
しかし想像したような愕くべき何事も遂に起こらないように見えた。記者団の緊張が稍《やや》弛《ゆる》みかけた。
と、その時だった。ワーナー博士が鋭い叫び声を発した。
「おお、異常の力の場に入った!」
博士の声と共に、各観測装置の計器の針は一斉に大きく揺れた。それは計器が俄《にわか》に心臓をどきどきさせ始めたように見えた。「指針が飛んだ。二号計器へ切り換えろ」「おお予備を持って来い」などと、研究員たちが競争のように喚《わめ》き始めた。パイロット・ランプが、あっちでもこっちでも点滅して、激しい力の変化が現に今働いていることを示す硫酸乾燥器が爆発した。最高温度計がパンクした。日記記録計の針がぴーんと飛んで、行方がわからなくなった。リノリウムの上は、殺人事件の現場のように、赤インクの海が出来た。
三人の記者たちは、困惑の絶頂に
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