放り上げられていた。非常に愕くべき出来事の真只中に今自分たちが置かれているのだ。しかもその愕くべき出来事が一体何事であるのか、それがさっぱり分からない。
博士に聴きたい。そう思って博士の方を見るが、当の博士は、器械類の間を猟犬のように敏捷に縫いまわり、早口にしきりに部下を指揮している。だから話懸ける隙もないのだった。
「何事が起こっているのだろうね、ホーテンス」
ドレゴは酔いも醒め果てて、アメリカの記者の腕を揺すぶった。
「分らない。しかし博士が予期していた以上の驚愕にぶつかっていることは事実だ」
やがてこの調査団室の風が一先《ひとま》ず鎮まる時が来た。それはワーナー博士が自席に戻りハンカチーフで額の汗を拭ったことによって知れた。
「何事が起こったんですか、ワーナー博士」
ホーテンスが、待ち兼ねた質問の矢を放った。
「煙草を、誰か……」
博士が記者の方を見た。水戸が、ケースを博士に差し出した。そして博士の指に摘まれた紙巻煙草の一本に、ライターの火を移した。博士は、貪《むさぼ》るように強く煙草を吸った。
「予想以上に奇怪なる海底地震にめぐり合ったのだ」
博士は、夥しい紫煙の中
前へ
次へ
全184ページ中62ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
丘 丘十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング