も、それに気がついた。そして二人の記者はドレゴの傍に膝をついた。
 ドレゴは知覚がなかった。水戸は烈しい不安に捉われた。彼はドレゴを仰向かせると、オーバーの胸をひろげ、服やチョッキの釦《ボタン》を引《ひ》き千切《ちぎ》るように外した。ワイシャツの下からドレゴの胸毛が見え出したときに、ドレゴは始めて呻り声をあげた。
「おお、気がついた。どうした。何かあったか」
「しっかりしろ、ドレゴ。何か物をいえ」
 二人の同僚は、心配と商売意識との両方に駆られ、ドレゴに顔を寄せた。その二人の鼻へ、ぷんぷんとアルコールの匂いが……。
「なあんだ、……」
「水はないか。目が廻ったんだ。咽喉がひりひりする」
「それだけか」
「おお水戸。異常現象らしいものが何か起ったね。どうだ」
「ふうん。冗談じゃないよ。てっきり君がその異常現象に喰われたと思ったんだ」
「莫迦をいえ。僕はそんなものに喰われるような間抜け男じゃない」
「いずれにしてもだ。こういうときはあまりアルコールを呑み過ぎるものじゃない。下手すれば脳溢血で、あの世へ急行だぞ」
「同感だ。水戸に同感」
 ホーテンス記者が、とどめを刺すようにいった。
 それ
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