塑像《そぞう》の如く停止し、ワーナー博士たちの観測を出来るだけ邪魔しまいと控えていた。
「マイナス一分三十秒。……マイナス一分二十秒。……マイナス一分一秒……」
時計係は、自記航海図と時計とを見較べながら、刻々と迫り来る重大時刻について警告を続けた。
誰も余計な口を聞く者はなかった。団長ワーナー博士は胸に下っている小さい送話器を握りしめたまま、微動もしなかった。この送話器は、船橋に通じていて、もし本船の安全を脅《おびやか》すような事件が近づくと看取された暁には、間髪をいれず船長に報告される筈だった。そういう報告が出れば、船長は直ちに乗組員の生命の安全のために応急処置をとるであろう。
「……マイナス十秒……」
ドレゴ記者は緊張のあまり窒息しそうになり、ネクタイをぐいと引張って弛《ゆる》めた。ホーテンスは、右の靴の先で、軽くリノリウムの床を叩いていた。水戸記者は塑像のように硬化している。
「今だッ!」
時計係の声は、咽喉から血が出るような声で叫んだ。
大きな鈍い音が起った。素破《すわ》――と、水戸記者が横を見ると、ドレゴ記者が床にぶっ倒れていた。
「あ、やられた?」
ホーテンス
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