まだこの事件に関係があるかどうか分らないが、僕が某観測所から得た報告によれば、最近大西洋の海底に小地震が頻々《ひんぴん》と発生しているのだ。それがね、従来の地震に見られる原則に対し、どういうわけか一致しない地震なんだ。何というか、異常地震というか、新型地震というか、とにかく変った海底地震なんだ」
「ははあ」
 三人の聴手は傾聴している。
「そしてね、最も興味あることは、異常地震が始めて記録されたのが、例のゼムリヤ号事件の起った日に極く近いのだ」
「それは面白い、どっちが早かったのですか、同じ日じゃなかったんですか」
 水戸は昂奮して、思わず途中で口を挟んだ。
「同じ日ではなかった。異常海底地震の方が五時間ほど前に記録されているんだ」
「五時間前! すると前日の十九時から二十時の間ですね」
「そうだ。詳しい時刻は十九時三十五分と記録されている」
「五時間も喰い違いがあると合わないなあ」
 水戸は呟いた。
「何が合わないって、水戸君」
 ホーテンスが傍から訊ねた。
「いや。つまりその異常海底地震を起したものによってゼムリヤ号が吹飛ばされたと仮定すると、この時刻がきちんと合わなければならない
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