者は、ドレゴと水戸とを伴って乗船した。そして前甲板の喫煙所で団長ワーナー博士に二人を紹介した。
 博士は白髪赭顔の静かな人物だった。
「おおドレゴ君。ゼムリヤ号事件の発見者たる名誉に輝くドレゴ君ですね」
 博士は目をぱちぱちして、ドレゴの手を握って振った。ドレゴは、少女のように耳許《みみもと》まで真赤に染めて、博士に挨拶をした。
 水戸も丁寧な礼を博士に捧げた。
「まあお掛けなさい。間もなく出港ですから」
 博士の言葉に、四人は籐椅子の上に落着いた。博士はパイプを咥《くわ》えた。
「ゼムリヤ号事件については原子爆弾説が圧倒的だった中に、水戸君はワーナー先生と同様に、大西洋にゼムリヤ号事件の鍵があると主張して断然異説をたてていた人です」
 と、ホーテンスは博士に紹介した。
「それは愉快だ。で、大西洋についてどういう予見を持っておられるかな」
 博士の問いに、水戸は何かを応えなければならなかった。
「私の説は、まだ証拠がないのですから、大した価値はありませんが、推理としてはゼムリヤ号があの事件当時居た大西洋で、まさか原子爆弾の実験が行われる筈はないと思ったからです」
「なるほどそれは同感だ
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