撃氷解させるだけの偉力があった。果して多くの人々が、この釈明に頗《すこぶ》る満足の意を表すると共に、かかる立派なる釈明があるなれば、何故にもっと早期において発表されなかったかを遺憾《いかん》とする者もあった。とにかくこの釈明によって、原子爆弾の秘密実験を行った某国というのはソ連ではなかったことが明瞭となった。この釈明の出た直後は、世界の隅々までにこの報道が行渡り話題としてにぎわった。ドレゴと水戸の両人もまた午後三時のお茶をのみながら、この事について語り合った。
「僕はてっきりそうだと思っていたがね。だから僕は前にホーテンスにそのことをいいかけて、周章《あわ》てて口を噤んだのだ。彼を無用に刺激《しげき》したくはなかったのでね」
ドレゴがいった。水戸は黙って肯いた。
「おや、君は何か別の意見を抱いているのかね」
ドレゴが、水戸の硬い面を凝視した。
「いや、僕は始めからあの国を疑ぐりはしなかった。しかしあの国は何故“ゼムリヤ号は当時|賑《にぎや》かな大西洋を航行中だったんだから、そのような嫌疑は無用である”という謂い方で釈明しなかったんだろうか。この事実を投げ出せば、釈明は一言でもって明
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