テンスは昂奮のあまり椅子からとびあがると口笛を吹いた。
「ほう、素晴らしい。頗《すこぶ》る重大なる手懸りだ。すると砕氷船ゼムリヤ号は事件直前において大西洋を航行中だったんだ。そうなるとゼ号は一体そんなところで、何をやっていたのかということになる。ゼムリヤ号の行動こそ、いよいよ出でて奇々怪々じゃないか」
と、ホーテンスは盛んに手をふりながら叫んだことである。水戸は椅子の中に深く身体を沈めて、じっと考えこんでいる。
怪力の追求
二人の若い記者の小晩餐があった翌日、ホーテンスはドレゴの邸宅を訪ね、彼の寝室の南のカーテンの裂けているところや壊れて真二つになった額縁や、そういう暴行を演じたゼムリヤ号の手斧などを見せて貰い、ドレゴの主張する南方飛来説が十分根拠のある訳を再確認したのであった。
「君の寝室は重大なる手懸りとして大切に保存せらるべきだ」と、ホーテンスは言葉を強めて云った。
「君の寝室はこの事件に関して僕の立てていた推定を根底から引繰り返してしまった。ゼ号は北極海からではなく大西洋方面から飛来したという事実を中心として、更に多くの資料を集めないことには、この怪事件は到底解決で
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