、壁にはその上半分だけが残ってぶら下っているんだ。それから僕は目を壁伝いに下に移した。床の上に、額縁の破片と一緒に、見慣れない手斧が落ちていた。その手斧は柄の一部が折れていたが、その上には明らかに、ゼムリヤ号の船名が彫りつけてあった。聞いているかね」
「聞いているとも。実に素晴らしい話だ。先を続けてくれたまえ」
ホーテンスも前へ乗り出して来た。
「それから僕は、この手斧がどこから部屋の中へ飛込んだかを確かめようと思ったさ。それは苦もなく分った。何故って、寝台の南側の窓のカーテンが一個所大きく、引き裂かれていたではないか。疑いもなくゼ号の手斧は南の窓から飛込んでカーテンを裂き、それから北側の壁の額縁にぶつかったんだ」
「なるほど、なるほど……」
「その手斧は、飛びつつあったゼ号からこぼれ落ちたものに相違ない。然《しか》らば、この手斧の運動方向とゼ号の飛行方向とは同一でなければならない。そうだね。するとゼ号は空中を、いやもっと精密にいうなれば、我家の真上を南から北へ飛び過ぎたものと断定して差支《さしつか》えない。さあどうだ、これが吾輩の握っている確かな証拠さ」
ドレゴが語り終ると、ホー
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